【ゲーム】騎手の生き様を彩る「ひらがな」
本当に大事なことは、ひらがなでも充分に伝えることが出来る。
幸か不幸か、勝負に関わる情報が全て簡単な文字だったゲームに、幼い私は心を奪われた。
これまでの私の視力と時間とを奪い去っていったゲームの1つに、「ワールドダービー1993」というソフトがある。ハードはゲームギア。このハードは実に無骨な携帯ゲームであった。
競馬という未知なる世界に、まだ小学生も低学年だった私は、最初はおっかなびっくり触れ始め、そこから徐々に要領が分かるとのめりこんでいった。
小倉や中山がどこかも知らず、血統が何たるかも知らなかったが、そこには馬と人間とが織りなすドラマがあった。そして、おおざっぱながらも存在する戦法の違いや外見の差異などが私には新鮮で、一人一人の馬や騎手を自分なりに解釈して楽しんでいた。今思えば、「パワプロの登録名がどうだ」の、「オーストラリア代表のこの選手がどうだ」など、昨今の私の変態的こだわりはこの時期から芽を出していたのかもしれない。
さて、このゲームで冒頭の文章を色濃く表しているのは、ズバリ各騎手の説明である。
レース前には騎手を選択できるのだが、その騎手それぞれの説明文はほとんどがひらがなで、なかなかに味があって良い。
ということで今回は、その説明文を紹介すると共に、印象的なレースも適宜紹介しながら、好き勝手言いたいことを言おうと思う。
やすたか ランク・E (元ネタ・安田隆行)
ベテランのいじをみせる
トウカイテイオーを新馬から支えた功労者だが、このゲームでの彼の印象は「ダカラフラッシュ(元ネタ・ナガラフラッシュ)」の主戦騎手だということに尽きる。
3歳新馬のエース格であり、ゲーム上ではナルサ(ナリタ)ブライアンにも引けを取らない強さを見せつける。
しかし、ナガラフラッシュは安田騎手が主戦から離れてから1着を勝ち取ることはなく、95年を以て引退。
また安田騎手は、彼女が引退した95年から調教師として活躍し、名馬を何頭も輩出している。
そんな彼は、最後に文字通りベテランの意地を見せ、ナガラフラッシュの躍動に心血を注いだ。簡潔な一文に、彼の自負が存分に込められていると思うと感慨深い。
むらもち ランク・D (元ネタ・村本善之)
しごとはそつなく
「そつのない仕事」ができる人ほど、職場に必要とされる人間はいないと思う。
そこには派手さはない。けれども、気が付くとその人は職場の中核を担っているのだ。
そんな仕事師が村本騎手である。
ゲーム上では、主にイイノディクタス(元ネタ・イクノディクタス)の主戦騎手として活躍。
正直、ゲーム上ではそこまで怖い馬ではないのだが、気が付くと2着にいたりする。そしてハイライトは、実際の安田記念での2着だろう。
14番人気でスタートし、道中は後方待機。最後の直線はほぼ横一線ながらも、ゴール直前にスルッと前に出てハナ差で2着と相成ったのだ。
ヤマニンゼファー、シンコウラブリイ、ニシノフラワーなど重賞複勝馬たちがひしめく中での2位。単勝オッズが100倍を超えるという超伏兵が魅せた奇跡に、村本騎手の渋さが光った。
続く宝塚記念でも、最強牝馬・メジロマックイーンに次ぐ2着でゴールインし、名脇役としての面目躍如たる活躍を見せている。
それほど極端な追い込みを見せるわけでもないのだが、勝ち取るところはしっかりとモノにする村本騎手には、まさに「そつのない」という一言がピッタリである。
そんな味のある彼の騎乗と紹介コメントとに、酒が進むこと請け合いだ。
なかだち ランク・D (元ネタ・中館英二)
ダートでにがせばあなあり
このゲームでも希少な、ダートに強い騎手として彼は登場する。
とはいえ、ダートでの活躍よりも逃げの印象が強いのは、彼の騎乗するトリプルターボ(元ネタ・ツインターボ)に原因があるのは明らかだ。
というのも、このトリプルターボ、ゲーム中でも1,2位を争う逃げ馬として登場するのである。
ゲームで出てくるのは、七夕賞とオールカマーの2レース。このどちらも驚異的なスピードで大逃げを打って出る。
「あなあり」どころか、風穴を開ける勢いで1位を独走しゴールかっさらっていくのがお約束となっている。
さすがにゲーム上での演出なんだろうと思いきや、彼らは実際のレースでもとんでもない大逃げを見せファンには愛されていたのだ。
オールカマーのが好きなので、そちらを紹介しよう。
もう、とんでもないスピードである。単独首位とはまさにこのことで、逃げ専門であるはずのホワイトストーンすら、このスピードについていけていない。
ホワイトストーンがそれほど大崩れせず4着という点と、地味に2位をかっさらったのが、地方競馬の雄である「ハシルショウグン」という点も良い。天皇賞馬であるライスシャワーに土をつけた馬は数あれど、ここまで圧倒的なレース展開を見せつけたのは、ツインターボ・中館ペア以外にはいないだろう。歴史に残る一戦と言って良い。
実際に、中館騎手はダートでも「買える」騎手として活躍したようなのだが、ツインターボの逃げと言い、ヒシアマゾンの活躍と言い、その潜在能力の高さには目を見張るものがある。
「穴馬」を生み出す彼に、「穴」はなかったと言うべきか。
以上、今回はここまでで終着。
まだまだ上のランクの騎手がいるが、それはまた別のレースで。
自分自身、競馬はそんなに熱心には見ていないし、馬券を買ったこともないのだが、これ程までに個性豊かな騎手や馬たちが生きた時代に間接的にでも触れられて、本当に幸せである。
「コメントにひらがなだけじゃなくて、カタカナも混ざってんじゃねーか」という馬並みに視野の広い方からのヤジが飛んできそうだが、そこの部分は、どうかセイネヴァーで・・・・。