「まぐわいや」ふと呟いた艶やかな君にベッドで「そうさ」と返す/「60.5フィートにふたりきり」キクハラシヨウゴ
君は知っているか?
1998年にMLBで起こった、異次元のホームラン王争いを…。
そのドラマには二人の登場人物がいる。
一人はマーク・マグワイア。MLB通算で583本のホームランを放ち、 一時期MLBのシーズン最多本塁打の記録を保持していた。
そしてもう一人は、ドミニカの英雄サミー・ソーサ。こちらは609本のアーチをかけ、通算安打数や通算盗塁数などはマグワイアを大きく上回っている。
そんな生まれながらのスラッガー二人は、1998年にお互いのホームラン数のキャリアハイを迎えるに至った。
当時、ロジャー・マリスの61本がシーズンの最多ホームラン記録であったが、二人はそれを優に抜きマグワイアが70本、ソーサが66本でシーズンを終えた。
日本で言うと王貞治やウラディーミル・バレンティン、村上宗隆など単独でシーズンにホームランを量産して記録に残る場合はあるが、デッドヒートでお互い切磋琢磨して、二人とも記録を抜き去るというのは珍しいかもしれない。
当時、大変にファンたちやメディアが盛り上がったであろうことは想像に難くない。
(個人的には2004に松中信彦が三冠王を取ったシーズン、セギノールとのデッドヒートが印象深いが)
そんな奇跡のようなシーズンがMLBにはあったのである。全くもって野球の進化というのは、我々の想像を遥かに超えていく。
そんなホームラン王争いを知ってか知らずか、夜を共にする二人はお互いに言葉をかけ合う。
「まぐわい」にかけて「まぐわいや」、それへの返答で「そうさ」(ソーサとのダブルミーニングになっている)と二人のこなれた様子が伺えるが、仮に前者が「マグワイヤ」を意識していなかったとしても、「そうさ」と返されることで、一気に1998年のMLBが立ち昇ってくる。
少し照れ隠しで「まぐわいや」という可愛さと、それにユーモアを交えて返す二人の一瞬を切り取った、恋愛の歌になっているのである。
時というのは意識をしていなかったとしても、何かのきっかけによって離れていても繋がる時がある。
「マグワイヤ」と「ソーサ」も時を超え、いつまでも輝かしいものとして私たちの目の前に興奮を呼び起こしてくれるのである。