【音楽】一文字系ソングで連呼補給
歌詞を気にする、気にしないというのは、人によってだいぶ違う。
リズム重視で歌詞を全く気にしない人もいれば、歌詞が繰り広げるストーリーを気にする人、あるいは言葉選びや韻などを気にするという人もいるはずだ。
もちろん、対象が邦楽か洋楽かで変わるだろうし、アーティストや作詞者によって気にする度合いが変わることもあるだろう。それこそ、楽しみ方は千差万別で、人の数だけ答えが用意されている。
そんな「歌詞」だが、邦楽洋楽問わず、「一文字系ソング」というものが存在する。
一文字系ソングとは、楽曲中に一文字が連呼される部分があり、そこが実に印象的である楽曲のことをここでは指し示す。また、最後のサビのメロディーを連呼で埋めてるというものではなく、キチンと連呼パートが独立して存在しているという特徴がある。
ともすると、カラオケで歌詞が表示されないがために、「え?スキャットしてる??」とエセ由紀さおり呼ばわりされかねないが、楽曲がもたらすインパクトを大きくしたり、小休止の役割や転調の役割を果たしたりと、一文字だからこその輝きを放つ曲が多い。
また、一文字だからこそ応用が利き、連呼することで独特のリズムを生み出すこともあるため、歌詞気にする派、しない派を問わず楽しむことが出来る。
今回は、そんな一文字系ソングを思いつくままテキトーに挙げていき、好き勝手言いたいことを言おうと思う。
プロ・デューサー/タルトタタン
メタ要素がふんだんに盛り込まれた歌詞が展開されたと思いきや、何事もなかったかのような「ラ」の連呼。まるで、欺瞞に満ちた世の中に「ラ」が鋭く切り込んでいくようである。
アイドルという、言わば作り上げられた偶像に、「ラ」を繋げることで生み出されたカタルシスで対抗する図が楽しめる、そんな一曲となっている。
ラのシャワーを聴きながら小躍りするもよし、ぼーっとするもよし、投げやりも現実逃避も、彼女らの「ラ」はしっかりと受け止めてくれる。
My Chemical Romance/Na Na Na
まるでマッドマックスシリーズを見ているかのような疾走感に溢れた一曲。冒頭部分から「ナ」の連呼で気分を爆上げしてくれる。
また、連呼部分が楽曲名になっているのが特徴の一つで、現地では「ら・ら・ら」(大黒摩季)的ポジションの楽曲である(諸説あり)。
邦楽だとイケナイ太陽の場合もそうであるが、「ナ」の連呼というのは実に盛り上がる。サビに持ってきて盛り上がりの余韻を長引かせても良いし、始まりの方に持ってきて期待感を煽るのも格別だ。困ったときの「ナ」の連呼という、歌詞界における「ナ」の権藤博的活躍ぶりをうかがうことができる良曲でもある。
Hush/Kula Shaker
ディープ・パープルのカバー曲であり、世代によっては懐かしの一曲。どちらのHushも言わずもがな最高である。そして、これにも「ナ」の連呼が実に効率的に組み込まれている。
というのも、「ナ」が楽曲の始まりを彩るだけでなく、転調のきっかけとしても機能しているからである。まずは、冒頭部分のカウントダウン後の「ナ」。曲としての口火を切るだけでなく、この部分だけで成立してしまうようなインパクトの強さを持ち合わせている。
加えて、歌詞と歌詞の間に要所要所で「ナ」が挟み込まれており、「ナ」の連呼で舞台が一度綺麗に均されるかのような落ち着きを各パートに与えている。
これらから、「ナ」の持つユーティリティーの高さが痛感できること請け合いの一曲と仕上がっている。
ナナナン魂/ゆうさま
「ナ」の連呼で楽曲が作れる、というノーベル賞級の証明をしてしまった渾身の一曲。
もちろん、ナナナン魂という楽曲名だけに、所々「ン」が入っているのを聴き逃してはいけないが、ここでの「ン」は句読点的な役割を果たしていると言ってよいだろう。
これは、歌詞が「ナ」だけで楽曲がだれてしまうということを避けるため、いわば調子を整えるために「ン」が入っていると考えられる。なぜなら、ちょうど「ン」の部分で歌詞を区切ることが可能だからだ。実際に口ずさむとよくわかる。
つまり、それを考慮するとこの楽曲は「ナ」の純度が100%であると言え、もはや成城石井で買った「ナ」みたく、贅沢な「ナ」の塊を楽しむことが可能なのである。さすがは塊魂の面目躍如といったところだ。
如何だっただろうか。
他にも、「路地裏の宇宙少年」とか「YAH YAH YAH」とか挙げようと思ったが、ナナナン魂に勝てる楽曲が見つからないという理由で締めさせていただく。母音が「あ」の一文字が連呼に適しているということなのだろうか。
改めて一文字の連呼とは、シンプルながらも奥が深い。普段なかなか、そのような連呼の機会はないからこそ、一文字系ソングが我々に示す世界には憧れや不条理、可能性などが溢れているようにも感じ取れる。
読者諸兄の明日からの音楽ライフに、ぜひ一文字系ソングという変わり種への楽しみを。