【音楽】マンションに思うこと、そこで聴きたい曲
夜の退勤電車。
周囲の暗さはすっかりと人々の顔に張り付き、気付くまいとしている疲れの意識を、車内の圧迫感が押し付けるかのように実感させてくる。
体力を減らしながら電車に揺られるという義務を果たした私は、目的の駅に着くとほうぼうの体で電車と決別をし、救いでも求めるかのようにふと川の方に視線を向ける。するといつも、川沿いに建てられたマンションに灯る明かりが、さながら蜃気楼のように目に飛び込んでくる。私はこの景色を見るのが好きだ。
内部が見えるわけではない各部屋に、白系や橙系の照明が灯る。あるいは、家主の帰りを待つ真っ暗な部屋もある。
どの部屋でも、異なる人間がそれぞれの時間を過ごしているであろう光景を第三者として眺めるとき、私はそこに数多のパラレルワールドの存在を感じずにいられない。
各個の選択の結果がマンションの光景に現れ、静かな川の流れは止めどない時間の経過を連想させる。そして、それをぼぅっと眺めている瞬間だけ、疲れが私の身体をふんわりと包み、空想と同化させてくれる気がするのだ。人々の選択の連続が世界を造るその一瞬で、唐突に殴られるのが好きともいえる。疲れ切ったサラリーマンには、それに抗う気力などはないのだが、明日もちょっとだけ頑張って行こうと思える景色が私は好きなのだ。
今回は、そんなマンションの一室で聴きたいと思ってる楽曲たちを挙げて、言いたいことを言っていく。
家々~撰ばれてあることの恍惚と不安とふたつ我にあり/nobodyknows+
「ココロオドル」で名を馳せたヒップホップグループが紡いだ一曲。
なんとも独特な雰囲気の曲だが、なぜか初めて聴いた時からずっと「マンションの一室感」を覚えていた。どことなく溢れてくる生活感というか、都市での生活を思わず想起してしまうような魅力があり、心なしかタイトルもマンションとリンクしているような気がするからだ。それでいて、マンションの建造物としての無機質な冷たい感じもよく表現されている気もしてならない。
彼らのちょっと変わり種な一曲は、マンション生活者の等身大の姿を映し出しているのかもしれない。
Ryuusei/TiA
NARUTOのエンディングとして起用された一曲。エンディング映像からはアニメーターの本気が垣間見えるのが嬉しい。
曲自体は大変に落ち着いたポップサウンドで、夜にうってつけな曲調である。
マンションの一室から外の夜景を見る瞬間、その日の疲れを癒してくれるような良質なサウンドであると思う。
なんともオシャレな高層マンションでこの曲をかけて、何か冷たいお酒でも頂きながら、流星が堕ちた後もきらめいているような明かりたちを眺めたいものである。そして、それを決して邪魔しないような気の利いた清廉さがこの曲には確かにある。
Beautiful World/宇多田ヒカル
宇多田光 Utada Hikaru - Beautiful World. Heart Station. 480p
こちらは、劇場版エヴァンゲリオンの主題歌として有名な一曲。
宇多田ヒカルのクリアな歌声が生きた、オシャレな名曲であることは間違いないが、どことなくはかなさを感じる。
「Beautiful World」という、正に人間が生み出したマンションという幻想郷が持つ人工物としての脆さやはかなさが、曲から浮かび上がるような錯覚に陥ってしまう。マンションの美しさが持つ意味を考えさせてくれる、含蓄に満ちた一曲であると言えよう。ミスリードも甚だしいね。
Melting point/capsule
マンションとは、一見集合体であるようで、実際にはそれぞれの居住空間がはっきりと独立している。そして、そこには周囲から解き放たれたそれぞれの安らぎの空間が存在しているのだ。安らぎを感じられることこそ、「家」の持つ本質ではないだろうか。
落ち着いたピアノが奏でるこの曲こそ、そのような本質をマンションの一室でも強く思い出させてくれる気がする。決して、オシャレピアノ曲なら何でも合うんじゃねぇか?とか言ってはいけない。
以上で、雑ではあるが言いたいことは終了である。
マンションではなく一軒家にて書き連ねた文章なので、至らない点も多々あると思うが、そこはそれぞれの管理人さんに相談してください。我が家に自治会はないため、自(ら)治(る)可能性は極めて低い・・・・。